マン・オン・ワイヤー
監督 : James Marsh
出演 : Philippe Petit音楽 : J. Ralph (title theme)
Michael Nyman
2008 / United Kingdom
時間90分
とても素晴らしい映画だった。
映画を見始める前は、
綱渡り師というものがどういったものなのか、
何をするのか、
ましてや、今はなきNYのワールドトレードセンターで、
どうして綱渡りをするのか、
全くすべて、何も分からなかった。
しかし、この映画を見進めていくと、
どうして、フィリップ・プティがこれをしなければいけなかったのか
分かった。
単なるやらせでもなんでもなく
「彼自身の気がすまなかった」ということ。
彼は、どうしてこんなことをしたのかと質問されたとき、
「理由はないさ」
と答えていたが、
そう、単に、理由はないけど、
彼がそうしないともうどうしようもないっていう
状況に追い込まれていたことだけが事実としてあって
そのためには、死も覚悟していたし、
むしろ、たとえ死んでも
それは、光栄な死に方だとさえ言っている。
ワールドトレードセンターでの「一日かぎりのパフォーマンス」となった綱渡りであるが、
映画では、それが実行されるまで長い年月、
フランスからNYへ行き、
全ての不可能ををねじ伏せようと
無理矢理にでも、作戦を実行していく姿
どんな危険をも顧みず、突っ込んで行く姿勢
仲間との決別、妙な理解者の出現
など
成功までのキセキが収められている。
中でも、感動したのは、 この男の気違いさと
それを真面目にやってのける理解者たち。
はっきり言って、成功しなかったら、
なんのお話にもならなかったであろう
いわゆる「キチガイ的発想」を
全員が真面目にやっている。
そして、ついに成功を収めた時には、
それは、本当に感動的なパフォーマンスで、
「やめときなよ、そんなこと」
なんて
だれも言わなくなってしまうような力がある。
綱渡りそのものももちろん見所としてあげられるが、
もっと、注目すべきは、
途中の沢山の出来事 が皆の人生に共通するような点を持っていること。
例えば、本当にワールドトレードセンターでの綱渡りを始めたとき、
一足踏み出したら「大丈夫、いける」という感覚が来て、
それから、約45分間、8回もその綱を行ったり来たりしたこと。
(途中、寝そべって、カモメと談笑したとは。警官の注意をよそに。)
困難なことに挑戦する時
この感触
味わったことがあるような気がする。
そして、その成功と共に、
彼は有名になり、
仲間、すなわち恋人、幼なじみとは分裂していったこと。
綱を渡った人間だけでなく、
綱を張ったり、沢山の人が、その舞台を作るのを支えていた。
しかも、全員が
「それは面白そうだ!」
という気持ちだけで。
その彼等、協力者も綱をはる相当の腕を持っていたし、
ましてや、捕まるかもしれないという心労も共にしてきた仲間だ。
しかし、この友情関係の意図は、
この成功と共に、一日にして
プツッときれた。
後に、幼なじみの綱を張った友人は、
インタビューで、涙をこらえられずに話をしていた。
大きな成功とともに、
フィリップだけが、別世界にいき、
彼等が取り残されて行く。。。
そして、彼等は、それは
「しょうがないこと」
と受け止めている。
これって、
誰もが経験することだと思う。
もし、あのときこうすれば!
とか
あのときこうしていれば!
ってすごく思うけど、
やっぱり同じ世界に生きているのに、
どうしようもなく違う世界に行ってしまったときの
見えない「ずれ」。
この映画は、ドキュメンタリーだからこそ
そういった生きて行くこと、そこで起こる事を教えてくれる。
それにしても綱渡りのシーンとエリック・サティの音楽のシーンは
時を止めたかのように美しかった。
警官が、ニュースのためにか、事情説明をしているとき、
「(この事件は誠に遺憾だといいながら)こんなパフォーマンスが見れたのはすっごいことなんだ。だって2回として起こらないこと何だから。」
と言っていた。
ここがとても好きだった。
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